Recent entries
2008/08/04 (Mon) 壊れるほど愛しても
2008/07/11 (Fri) 戦う資格すらない
2008/06/30 (Mon) 今宵の月は…

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


※前編だけで、まだ後編は書いていません










 「気分のらねぇなぁ」
真冬の青い空の下、男は嘆いていた。

 男は自分1人で店を経営している。
人に気分を売る『気分屋』だ。
良い気分になりたい人がいれば法律的に合法なやり方で良い気分にさせ、悲しい気分になりたい人がいたらありとあらゆる方法で悲しい気分にさせる、それが気分屋だ。

 「今日も客は0か」
男はタバコを口に咥えたまま立ち上がり、店のシャッターを閉めようとした。

 「あのー、すいません」
男の後ろから若い女性の声が聞こえた。
「はい」
「あなたが気分屋さんですか?」
「はいそうですけど」
「ああよかった。 ホントにあったんだ」
 そう言った女性は安堵の息を吐いた。

 「依頼ですか?」
「はい」
「ではお話は中で聞きます。 どうぞ入ってください」
 そういうと男は閉めかけのシャッターを再び開け、女性を店の中へと招いた。

 「すいませんねこんな汚いところで。 あ、今お茶だすんで」
「どうもすいません」

 男は手慣れた動きで急須と湯飲みを取り出し、茶を作り始めた。
 「お1人でやってらっしゃるんですか?」
部屋の中を見回しながら女性は男に聞いた。
「えぇ、まぁ」
「失礼なことを聞くようなんですが、客ってくるんですか?」
「まぁ1ヶ月に1人くらいは。 今月はあなたが1人目だ。 歓迎しますよ」

 男は女性の前に茶を置いた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
さほど広くない室内に茶を啜る音が響いた。

 「で、今日はどんな気分をお求めで」
「……私じゃなくてもいいですか?」
「と言いますと」
「私、好きな人がいたんです。 会社の上司でとても頼りになる人でした。 そんな彼を私は好きになりました。 彼も好きになってくれました。 付き合って1年経ってから言われたんですよ。 『そもそもお前とは遊びだった』って……それで、彼に復讐してやろうと思って、嫌な気分にさせてやろうと思って……」
彼女は泣きそうな声で言った。
「それは殺し屋に頼んだ方が良いんじゃ無いですか……」
「殺し屋は見つかりませんでした」
「あ、探したんですか」
男は微笑した。

 「では今日は『嫌な気分』をお買い求めですか?」
「はい」
 すると男は何やら1枚の紙を出した。
「嫌な気分の場合ですと幾つか種類がありますね。 『3日で忘れられるような嫌な気分』から『自殺したくなるようなの嫌な気分』までありますが……」
「それで」
「あ、即決ですか。 わかりました、『自殺したくなるような嫌な気分』ですね」
 男は紙をしまった。
そして次は電卓を打ち始めた。
「では値段の方は高めになりますけど」
男は電卓を見せた。女性の顔が少し青ざめる。
「……け、結構お高いんですね」
「まぁこのくらいでないと飢え死んでしまうので」
男は笑ってみせた。
その笑みは純粋なものだった。

 「わかりました。 お金は……」
「あぁ、終わった後でいいです。 成功報酬みたいな感じで」
「わかりました」
「日時指定とかはありますか?」
「いえ、特には」
「わかりました。 えーでは来週の日曜日実行します。 あ、それとあなたにも手伝って欲しいことがありますので来週の日曜日は空けといてください」
「わかりました」
「あとここに名前と住所と携帯番号を書いてください」
男は白い紙とペンを女性の前に差し出した。
「わかりました」
「……なんかあなた急に『わかりました』ばかり言うようになりましたね」
「すいません……」
「いえ、別にいいんですけど」

 そして女性は書いた紙を男に渡すと立ち上がった。
「では後日」
「ありがとうございました」
 女性は店を出た。

 男は立ち上がり一度伸びをして、店を閉めに外に出た。
スポンサーサイト



このコメントは管理人のみ閲覧できます
【2007/03/03 14:37】 | #[ 編集]














管理者にだけ表示を許可する


| HOME |


Design by mi104c.
Copyright © 2018 駄文五重奏, All rights reserved.




上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。